⑭まっしろな百合の夏

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 かわいらしく楽しんでいる白髪のお母様を、ふたりでそっと見守っている。静かなベンチだった。  今日はほんの少しの風がそよいでいて、公園内にある木々から葉ずれの爽やかなさざめきも聞こえる。  彼の額にかかっている黒髪も柔らかにそよいでいる。母親を見つめて見守っているようで、その目が柚希にはもっと遠くを見つめているように思えて首を傾げた。 「来週で異動になるな。ユズとは別々の部署になる」 「そうですね。でも、いままでどおりに、広海君のおうちに遊びに行ってもいいですよね」 「もちろん。ユズが来なくなったら、母が寂しがるよ」  あの日から、柚希はちょくちょく小柳家を訪ねて一緒に夕食を食べたり、買い物にでかけたり、散歩をしたりと三人で過ごす時間が増えていた。  彼の異動で職場で毎日そばにいることはなくなるが、小柳家に行けばいつだって会える。彼の異動をそんなに不安には思っていなかった。 「お願いがあるんだ。柚希に」  ユズではなくて、今日は妙に真剣な声で柚希と呼ばれドキリとする。 「なんでしょう……」 「俺と母と、これからもこうしてずっと一緒にいてほしいんだ」 「はい。いいですよ」  いまさら、なんでそんなことを聞くのかなと思いながら、素直に柚希は返答した。なのに、広海がどうしてかギョッとしたようにして柚希を見下ろしている。 「あのな、俺には常にあの車椅子の母がいて――」 「うん、そうですね。ですから、それがどうかしたのですか」 「いや、ごめん。俺が悪かった」 「え、ど、どうしたんですか」
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