⑭まっしろな百合の夏

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「言い方を変える。俺の彼女になってくれますか。いまのままだと、友人だと思われているんじゃないかと心配になってきて――」  真っ白の百合がひしめきあっているガーデンに、夏風がよぎっていく。 「恋人になってほしいと言っているんだ」  ここで本当なら『はい。嬉しいです』と柚希は言いたかった。  でも、ひっかかりはとっておきたいと思う。 「あの……。こんな時に聞いてごめんなさい。広海君は、千歳お嬢様のことが好きなんじゃないかと思っていたから」 「え!? なんで!!」  彼らしくない声を張り上げたので、隣にいた柚希のほうがびっくりして目を丸くしてしまった。 「同期で心が通じているみたいで、千歳さんのために、支えていく仕事がしたいと言っていたから、ずっと前から本当は好きだったんじゃないかなと思っていたの。その気持ちを無視して、私、一緒にいるからって舞い上がっちゃだめだと思っていたの」 「え、そうだったんだ? 俺もはっきりとしなかったから悪かったけれど、母が熱を出してユズが駆けつけてくれた時にはもう……。この子、かわいいな、ほっとするな。一緒にいてくれたら嬉しいなと、もう好きになっていたんだけれど」 「うん。ぎゅって抱きしめられた時に、私も……。広海君と一緒にいてあげたいと思ったよ。でも、それは、感情的になっていたあの時限定かもしれないって」  彼が『ああ、そうだったのか』と黒髪をかきながら、顔をしかめる。 「そりゃ。同期で気が合うよ。あいつ、さっぱりしているし、気が強いけれど、責任感も正義感もある。信頼できる仲間だよ。正直に言えば、真摯に俺と母を助けてくれる彼女を見て、女性として気にしたことがあるのも本当だよ」
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