⑭まっしろな百合の夏

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「諦めていたんだ。俺に恋人なんて。ずっと母とふたりで慎ましく暮らしていければそれでいいと……。でも柚希に恋をしたから、諦めたくない。一緒にいてほしい」  かすかに百合の薫りが柚希のそばを掠めた気がした。ささやくように風に揺れているカサブランカのガーデンを見つめて、柚希も答える。 「はい。私も、あなたが、お母さんを大事にして頑張ってきたあなたが、好きです」  並んでいるベンチの上、夏風がふくそこで彼が柚希の手を嬉しそうに握りしめていた。  ふと我に返って『芹菜お母さんは』と探すと、白いカサブランカのガーデンの片隅で、ハンカチを持って目元を抑えている姿が――。  あ。ふたりきりにしてくれていたのかと、柚希は気がついた。  なんだか『広海。あなたちゃんとユズちゃんに、カノジョさんになってと申し込んだの? なあなあにしちゃだめでしょ』とせっつく芹菜さんも浮かんでしまった。でもぜんぜん嫌じゃない。むしろ、そっと笑みが浮かぶ。  告白する時もママが一緒。人はそう言うかもしれない。  でも、そうじゃない。私たちは、三人一緒が自然になっているだけなのだから。
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