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そんな挨拶を聞いて。柚希は改めて気がついた。
そうか。母のことは母として忘れていないけれど。柚希自身も、甘い匂いと柔らかさがある女性と一緒にいて楽しいのは、母親を感じていたからなのかと……。
そんな父は柚希と芹菜お母さんが揃えた食卓を見ると『おおおぅ!』と目を瞠っている。
「いやあ、やはり女性が整える食卓ですね! キラキラして華やかで優しい。ご自宅の雰囲気もそうですね」
「いらっしゃい。お父様、勝さん。どうぞ、お座りになってください」
食卓も整い、父も到着したので、全員でそれぞれの席についた。
父が買ってきたビールは冷蔵庫で冷やし、まずは広海が準備してくれたワインで乾杯をする。
父も渡された銘々皿に気になる料理をとり、『うまい!!』と頬張ってくれる。
今日も暑かった、今日はどこどこまで営業で、調査で、企画室でいま……他愛もない世間話で、父と広海が空気をほぐしていく。
この間、柚希は微笑ましく眺めているようで、内心はどきどき緊張していた。自分が言うわけではないのに、だった。
ついに広海が切り出す。
「お父さん。よろしいですか」
「ん? なんだい、広海君」
イカリングの南蛮漬けサラダを頬張っている父へと、広海が姿勢を正して緊張した顔になっていく。
向かい側で女同士並んで座っていた柚希と芹菜母は固唾を飲んで、一緒に硬直した。
「柚希さんと結婚を前提にしたおつきあいをしています。お父さんにもそのことをお許しいただきたいです」
彼が綺麗な黒髪の頭を、隣に座っている父へと深く下げた。
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