⑯元自衛官だから

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 父が驚くかなと柚希はハラハラしていたのだが。ことのほか落ち着いていて、でも、いつものお茶目な笑みを見せてくれている父でもなくなって真顔になっていた。 「そういうことだったのか」  持っていた皿も箸も、父は薄笑いを浮かべて置いた。  顔が……。柚希がいつも自宅で見ている父の顔ではなかった。おそらく仕事をしている時の、或いは、レンジャーで訓練をしている時の男の顔といえばいいのか。  それは広海にも伝わったのか、彼が焦るように続ける。 「もちろん。僕と結婚すると、障害がある母との暮らしになります。ですが絶対に苦労はさせません」 「いや。そんなことは心配していないよ。むしろ、お母様を大事にできるか、君と背負っていけるか、娘が現実から目を背けていないかと案じているんだよ」 「そんな。柚希さんは、母にはよく尽くしてくれています。母も彼女が来ることを楽しみにして、最近はとても元気に過ごしているんです」  そんな父の目線が広海から、正面に座っている柚希へと向いた。 「柚希。覚悟はしているんだよな。これからは、父さんより、芹菜さんだ。わかったな」  こんなふうに言われるとは思わず、柚希は戸惑った。  柚希にとっては父だって大事だ。芹菜母も大事だ。どっちも大事だ。どうして『父さんより』なんて言葉がでるのかと、和気藹々とした席になるようと思っていたのに、涙が出そうになった。  今度は芹菜母が身を乗り出すかのように、父へと向き合う。 「お父様。柚希ちゃんにとっては、私よりもあなたが大事で当然だと思っております。広海にとって、私がたったひとりの親のように、ユズちゃんにとってもお父様はたったひとりの親御様なのですから。そこまで厳しくされなくても」
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