⑯元自衛官だから

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 広海もだった。明るくてお茶目な父だと知っていたから、ご挨拶で緊張はしても、お許しをもらえたら和やかムードの食事会になると思っていたはずなのに。覚悟とはと厳しい問いを、男の自分ではない、彼女の柚希に向けられることになって硬直していた。  そんな広海に、今度は父が頭を下げる。 「広海君。君が真面目で、母親を大事にできる責任感ある男性であることはもう知っているよ。お仕事も昇格おめでとう。安心して柚希を委ねられます。よろしくお願いいたします」 「お父さん……。恥ずかしいです。僕は、お父さんが考えるほどのことにまで、思い至っていませんでした。でも僕は、柚希さんのことも、母のことも、お父さんのことも大事にして、皆で楽しい家族になれたらと願っています」 「うん。ありがとう。私だって、これからは君と芹菜さんの力になるよ。うんと頼ってくれよ。柚希は芹菜さんから久しぶりの母性を感じているだろうけれど、広海君にはお父さんとして頼って欲しいな」  こちらも父親とは二十歳そこそこで死別したからなのか、広海の目にもうっすらと涙が滲んだのがわかった。 「芹菜さん。結納など仰々しいことはしなくていいかなと考えていますがいかがでしょう」 「それは、お父様がそのようなご方針であれば、ふたりもそれでよければ構いません」 「ですが婚約とわかる形は取っておこうかな。まず周囲に公にするために、同じ職場で勤めているため、上司に報告をする。婚約したことがわかるようにする。親の挨拶はこれで済み許可を取れたという形でよろしいですよね」 「はい。お父様。かまいません」  また父の視線が柚希にまっすぐに向かった。
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