⑯元自衛官だから

6/7
前へ
/916ページ
次へ
「周囲への婚約の挨拶が済んだなら。柚希、もうこちらのお家で寝泊まりをしてもかまわない。少しずつ、こちらのご家庭とともになる準備をしなさい。広海君もそれでいいかな」 「はい。もちろんです。ですが、お父さんもこちらにお顔を見せに来てくださいね。僕たちも母と柚希さんと、神楽の家へうかがいますので」 「おう。広海君ひとりでもいいぞ。男だけの晩酌をしようじゃないか。ゴリラ流・酒の肴を作って待ってるからな。うほうほ」  最後、そこで茶化すんだ――と、柚希は一気に力が抜けていく。広海と芹菜お母さんにいたっては、いきなりの『生うほうほ』に目が点になっていた。 「うわ。初めて聞けた。お父さんの『うほうほ』!」 「ユズちゃんが言っていた、お父さんの『うほうほ』、いきなり!!」 「これからも突然でてきますよ。うほうっほ」  柚希にはお馴染みの、胸筋を拳で叩きまくる『ドラミングうほうほ』まで披露し始めた。  お父さんやめてと言いたくなるが、先ほど自分でやっておいて、かなりきつい空気に締め付けたものだから、気にして自分からほぐしにきているんだとも思えた。  広海と芹菜母が楽しそうに笑い出したので、柚希も頬を緩めたが。  でもほんとうはちょっぴり泣きそうになっていた。  そうか。結婚って。お父さんをひとりにしちゃうのかもなと。好きな彼と素敵なお母さんとの時間に夢中になっていて、ほかのことが目に見えていなかったことにも気がついた。父を気遣うということではない。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5117人が本棚に入れています
本棚に追加