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入室するなり、妙に魚介ぽい匂いが漂っている。でも香ばしい匂い。ちょっと美味しそう……とお腹がなりそうで柚希は堪えた。
「小柳君。今朝、家族のことで話があるって言っていたけれど……。神楽さんも……?」
柚希も伴って話したいことがあるとまでは伝えていなかったようで、千歳お嬢様はふたりいっしょに入室してきたのでキョトンとしていた。
だが伊万里主任だけが『あ!』となにか気がついたかのように声を上げた。でもだからこそか、すぐに口元を手で覆って黙り込んだ。朋重さんも不思議そうに首を傾げている。
テーブルにはなにか煎餅のようなものが並べてある。どうやら試食をしているようだった。
その美味しい匂いの中、広海と並んで千歳お嬢様に真っ直ぐに向かう。彼から報告する。
「彼女、神楽さんと婚約することになりました。両家の親にも報告済みです。同じ職場なので、上司である室長にまずご報告とさせていただきます」
場がシンとした。でも伊万里主任だけが口元を押さえたまま、ちょっとそわそわ、足をバタバタさせて姉を見ている。
お姉様はというと。
「え!!? 早すぎ!!」
早すぎ? 思わぬ反応に、広海も柚希も揃って眉をひそめる。
「わー、姉貴の作戦大失敗! こんなこともあるんだ!」
「うるさい、伊万里。でも私のお見立て、合っていたってことじゃないの」
姉弟がやいやいとやり始めたけれど、広海と柚希にはなんのことかわからない。
そんな姉弟が言い合っている間で、また余裕の朋重さんが『まあまあ』とキラキラした笑みを見せるだけ。
我に返った広海がやっと室長に声をかける。
「えーっと。千歳……でいいかな。なんのことかと」
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