5116人が本棚に入れています
本棚に追加
「気になっていたんだけど……」
「うん?」
「ここの焼きうどん……美味しそうだったから……」
「いいね。外も暑いし、ここでこのまま食事をしていこう」
伊万里的フルコースを思い出して、やっとふたりで笑えるようになる。
マスターを呼んで、焼きうどんとピザをシェアしようということになった。
まだ彼がもう少し若いときの荻野姉弟大食いエピソードを聞いて、柚希は驚いたり、一緒に笑ったりして、モヤモヤしていた気持ちが晴れていった。
食事を終えて外に出ると、さすが北海道、少し気温が下がって湿気もないので夜風が心地よく吹いていた。
テレビ塔も夏の涼しげな色合いのライトアップになっていて、広海と一緒にお互いが向かう駅の別れ道まで歩いて行く。
彼がそっと手を繋いでくれる。柚希も握り返して、背が高い広海の顔へと見上げて微笑む。もうこれも自然なことだった。
「二人きりになるって、あまりなかったな」
「そうだね。でも三人が自然だよ」
「母さん。気を遣ったんじゃないかな。二人きりにしたいって」
「結婚したらそんな時間もできると思ってるよ」
なのに。そこで広海が強く柚希の手を握り返してきた。ちょっと汗ばんでいるように感じる。
「ほんとうは……。俺の自宅に柚希が夜も一緒にいるとき。けっこう耐えているというか……」
「そ、そうなんだ……」
「でも。あの家ではどうしても。まだその気になれなくて。柚希の実家など以ての外だ。だから……」
いまここにはふたりきり。
お互いの父と母の心配はいらない。しっかりした柚希の父が、安全に彼の母を守ってそばにいるから、今は心配などない。だから……。その先が柚希にも通じる。
「遅くならないようにするから」
「は、はい」
最初のコメントを投稿しよう!