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「聞いてもいい?」
「いや、聞かないでほしい。それに。もう決めたからいいよ」
今度はふっきれたような優しい微笑みを見せられた。でも、まだ思い詰めたように眼差しを伏せる仕草も見せられる。
「岳人パパ、あの、もしかして……」
離れていくの? 私たちから? 親権を完全に譲って監護権を辞退して、拓人を私と将馬さんに任せて、あなたはどこかに行っちゃうの? そんなの嫌! 拓人がまた泣く。行かないで。拓人が大人になるまで! 岳人パパに奥さんができても、恋人ができても、私たち一緒に家族ぐるみでお付き合いしていこう――! 寿々花はいまここで言い切ろうと身を乗り出す。
「パパ! よっ君、お店のなかに連れて行ってお茶にしようって三佐が言ってるよ。遥ママとしょうほパパのところに行こう!!」
リードに繋いだヨキと拓人が元気いっぱいにベンチまで走ってくる。
だから寿々花も出かけた言葉を飲み込み、ベンチに深く座り直した。
ヨキが寿々花の足下までやってきてスニーカーをくんくんとかいでいる。
「すずちゃんもあったかいところに行ったほうがいいよね。行こうよ」
「う、うん。そうだね。あったかいミルクでも飲もうかな」
やがて将馬もベンチに辿り着く。拓人とめいっぱい走ったせいか額に汗を光らせていた。
いつもの四人が秋の優しい木漏れ日の下に集う。ヨキもちょこんと座って拓人がいつものように愛おしそうに撫でている。いまここは幸せなファミリーの光景。そう、ずっとこうありたいのだ寿々花は。岳人パパにそう言いたい。
そんなとき。寿々花のお腹の中でぽこんとした感触があった。
「あ、動いた。たっくんの声が聞こえたから? 最近、たっくんがそばにいるときに動くことが多い気がする!」
寿々花の一声に、そこにいる男たちが驚いた顔を揃える。
すぐに飛びついてきたのは拓人だった。
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