5119人が本棚に入れています
本棚に追加
寿々花もヒヤッとした様子を一瞬だけ顔に出してしまった。岳人パパもだった。むしろ、岳人パパがいちばん青ざめていた気がする。それは寿々花にとっては思わぬ岳人の姿だった。いままでなら、当たり前のこととして『ついても良い嘘』として笑い飛ばしていたところだった。
将馬も寿々花も岳人も。なぜ、今日はここで流せなかった?
拓人も気がついた。大人三人、そこでいつもなら四人でいろいろ喋って笑い飛ばしている楽しいところのはずなのに。どうしたのという顔を見せていた。
寿々花が感じ取っていた違和感。岳人パパの見えぬ気持ち。それを彼から、岳人パパから踏み込んできた。
彼の目つきが一変する。岳人パパも芝の上に跪き、訝しむ拓人へと向き合った。
息子の小さな肩を両手で掴んで、岳人が真顔で拓人の目を見つめる。
その目はまるで拓人を真剣に叱りつける時のような眼差しだったので、寿々花は息を呑む。
「パパ?」
「拓人、よく聞いてくれ」
岳人のそのひと言だけで、将馬も一気に焦燥感を露わにした目つきに変わった。
「岳人君、待ってく・・」
「拓人の本当のお父さんは三佐なんだ」
感良く気がついた将馬さえも間に合わず、岳人が遮り言い切った。
寿々花は呆然としている。
まさか。そんな決意をしていた?
岳人パパの止まぬ深いため息。思い悩む姿――。『もう決めたからいいよ』。あの言葉の意味は、これだった?
お腹の子のほんとうの兄だと。将馬が本当の父親だと告げる決意を固めるために、岳人パパは苛んでいた――?
「三佐が……、お父さん……?」
拓人はまだ七歳だ。
どうしてここで告げた?
最初のコメントを投稿しよう!