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⑩あなたの微笑みのために
戸惑う拓人が岳人パパを見て将馬を見て、なんの冗談かと、さらなる説明を求めているのがわかる。
また岳人パパが意を決した確固たる表情で、拓人に語る。
「ほんとうは、ママと将馬おじちゃんが結婚するはずだったんだ」
「ママが、三佐と……結婚? 恋人だったってこと」
「そう。でも、拓人がお腹にいる時に、ママが将馬おじちゃんとは結婚できないと断ってしまったんだ」
「……三佐のこと、嫌いになったってこと……?」
「自衛隊の奥さんになりたくなかったんだよ。だって、大変なお仕事をする旦那さんになるんだ。お留守番が多いこと、拓人もわかるよな」
自衛官には長期の演習訓練出張もあれば、持ち回りの『宿直』という駐屯地に宿泊常駐をする当番もまわってくる。そうすると、一家の主である父親が家にいる日数はわりと少ない。将馬は有望幹部でなおさらだった。
拓人もそれは数年一緒にいてよくわかっていたからか、こっくりと頷いた。
「あのママが。子どもの拓人と一緒に、大人ひとりで留守番できると思うか?」
思わないと拓人がはっきりと首を振った。
札幌に来るまでも、物心ついたばかりの幼い男の子だったのに、実母の『ママにはできないこと』がなにかよくわかっている。それがまた寿々花は哀しいし、将馬はまた眉間にしわを寄せて怖い顔をしている。
「だから。結婚をやめたんだ。ママは将馬おじちゃんから逃げたんだ。その後に、おなじ高校に通っていた同級生のパパと出会って結婚したんだ。おなかには拓人がいたけれど、パパはその時、ママのことが大好きになったから、拓人のパパになると決めたんだ。将馬おじちゃんはもう、会ってはダメという約束を無理矢理させられたんだよ」
「ど、どうして……」
「ママがもう将馬おじちゃんには会いたくなかったからだ。逃げちゃったから、会えなくなっちゃったんだよ」
そこで拓人が将馬をじっと見つめてきた。
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