⑩あなたの微笑みのために

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「パパはどこにも行かない。岳人パパも家族だ。どこにも行かせない。拓人が生まれた時からのパパだ。これからも拓人はパパと一緒にいていいんだ。いままでどおり一緒に住んでいていいんだ。なにも変わらない」 「ほんとに……。本当のお父さんと住まなくてもいいの?」 「いいんだ。でも、三佐もそばにいる。寿々花もそばにいる。生まれてくる妹もずっと一緒にいられる。パパと三佐はお別れもしない」  そこで将馬が岳人パパの手を握って、拓人の目の前に掲げた。 「そうだろ。岳人君。いままでどおりだ。ずっと一緒だ」  男同士、父親同士、親権を勝ち取った親友同士、その証のように将馬は岳人パパの手を握りしめる。  寿々花も固唾を飲む。岳人パパの決意はどこまでだったのか。父子の真実を伝えて去るつもりだったのか。それとも……。  よく知っている笑顔を岳人パパが見せてくれた。彼も将馬の手を握り返した。 「拓人が大人になるまで一緒にいると決めているよ。拓人が結婚して、家を出て行くまで一緒にいる。結婚式も出ちゃうからな。その時は、三佐とパパが『赤いスイートピー』を唄ってやるよ」  ずっと先の、その日のための約束。つまり、それまでまだずっとそばにいるという岳人の誓いだった。  涙顔になっていた拓人も、ちょっと笑みが戻って来た。そしてやっぱり……。岳人パパに抱きついた。  本当のお父さんと知っても、まだ三佐には抱きつかない。将馬もそれでいいんだと笑って、パパに抱きついて安心して泣き出した拓人の頭を優しく撫でていた。 「寿々花、拓人を頼む。ちょっと岳人君と話すから」 「うん、わかった」  木漏れ日のベンチで、父親二人が向き合う。
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