⑩あなたの微笑みのために

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---🍂  寿々花が気がついていたことは正解だった。  あの後、岳人から『どうして突然打ち明けたのか』という彼の心情を教えてもらった。 『お腹の子が女の子とわかったからだよ。血の繋がりがない異性として接する日々を積み重ねることは良くないと思ったからだ。兄妹ではないと思わせておいて、親しくさせておいて、いい年ごろになって実は兄妹だったと言われた時。ほんとうに兄妹として見られるのか。その時には違う意識が芽生えていないか。万が一がある。それでは遅い。それならば、多少、拓人の心の負担になっても、いまのうち、出産前に真実を告げる。最初から自分は正真正銘の兄で、生まれてくる子は血縁ある女性だと意識させたかった』  さらに岳人パパは付け加える。『兄と妹が異性で惹かれ合うなどという発想が出て案ずる意識を持てるのは、おそらく俺が他人だから』。  やはり岳人パパは思慮深い男性だと、寿々花は痛感させられた。  将馬は『拓人にショックを与えたくない』という気持ちのほうが大きく、これから生まれてくる実娘と拓人が異性として意識するだなんて、まだそこまで考え及ばぬ状態だったと我に返っていた。  この出来事のあとも、岳人パパと館野の二家族でつつがなく過ごしている。拓人も将馬のことをお父さんと意識をすることが垣間見えてきたけれど、まだ『三佐』のまま。岳人パパと一緒に暮らしている。  寿々花のお腹が大きくなって、臨月が近づいてくるまでも、拓人は生まれてくる妹を心待ちにして、兄としての心積もりを寿々花と一緒に育む日々。  ひとつ決めたのは、次に将馬の転勤で家族ごと移転することがあれば、拓人の転校にあわせて『館野拓人』と苗字を変えるということ。拓人も交えて家族全員で了承したが、それもまだ数年先になりそうだった。
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