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イメージは『チップス』なのに、最初はカリッとしていても時間が経つとしなっとして生臭さが出てくる。
テストキッチンは荻野製菓の日もあれば、浦和水産の石狩工場の場を借りて、浦和水産の社員からもアイデアをもらっての試作試食が繰り返されていた。
一般消費者の忌憚なき声も欲しくて、千歳は身近なところで、自社の女性社員からも意見を募った。
特に納得していないのが。
『まっずそう。あれ、駄目だわ。駄目。あんなん、保食神さんにおすすめできんわっ』
という……。福神様ご機嫌ななめの夢を見てしまった。
石狩の保食神様がタコを呼び寄せてくれているようなので、いつか持っていって召し上がってほしい。そんなふうに千歳はお返しとして考えているのだが、まだまだお供えするには至らない。
「あ、」
今日も荻野のテストキッチンで試食をしている時に、伊万里がハッと思いついた顔をした。
「これさ。タコの扱いに慣れている『漁村のお嫁さんズ』に協力してもらったらどうかな」
千歳も朋重も同時に『あ、』と表情を揃えた。
「確かにそうだね。うん、川端のおっちゃんに連絡してみるよ」
「そうね。あんなに美味しくタコ天を揚げられるんだもの。なにかヒントくださるかも!」
タコだけではなく、石狩で揚がる海産物でご馳走を作るエキスパートじゃないかと、ひと筋の光が見えた気持ちだった。
朋重がさっそくスマートフォン片手に連絡を取ろうとしているそばで、千歳は『言づて』を頼む。
「せっかく石狩の漁村から出てきてくださるのなら、お返しをしたいから、うちの『こもれびカフェ』のフリーチケットとお土産を準備するとも伝えて」
千歳の提案に、夫の朋重もクォーターの優美な笑みを見せてくれる。
「いいね。そう伝えておく」
朋重からの連絡に、川端家はいつも気前よく対応してくれる。
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