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「ごめんね。いっぱい食べたかったんだけれど、ここのところ、ちょっと寝不足だったかな」
「夜遅くまで、調べ物にデータの確認とかしていたもんな……。そんなこともあるか」
「うん。たまにあるの。なんか、こう胸に詰まるような、胸焼けのような重く感じるときが……」
「そんな時は、神様はどんなお告げをしてきた?」
「なにも。ただ、なんとなく『気をつけなさい』と言われている気がする。開発が頓挫しているせいもあるのかも。……もしかすると、この企画、ダメなのかな」
いつになく弱気になっている千歳に、朋重がただただ寄り添ってそばにいてくれる。いまは仕事中なので、自宅でそうであるように抱きしめるなんて行為ができないので、もどかしそうな視線で千歳を見つめてくれている。
「今日は定時であがって、ゆっくり休むんだ。家のことは俺がするから。仕事のことを忘れる日もきちんと持とう」
「……うん。大丈夫。朋君が家のこともしてくれるから、仕事に没頭しちゃって。でも、今日はあなたとゆっくりする……」
「うん。そうだね……」
今日も品の良いスーツ姿の夫が優しく労ってくれる。それだけで千歳はほっとできる。
コーヒーの薫りがするのに、いつのまにか、黙って淹れていたはずの伊万里がいなくなっている。
新婚の姉夫妻に気を遣い、キッチンを出て行ったようだった。しかし千歳が残し譲った『おにぎり』十数個も、ちゃっかり持ち去っていた。
石狩漁村に住まう川端家の三代お嫁さんたち。
川端氏の実母、大姑『富子さん』。川端氏の妻、『亜希子さん』。川端家長男の若嫁、『ミチルさん』――。三世代揃って荻野製菓本社に来てくれた。
前もって準備していた本社訪問用のパスを手渡す。
「うわ~。荻野本店の上にある本社に入れるなんて!」
若嫁さんのミチルがおおはしゃぎ。
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