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伊万里は、千歳と違って神様付のご加護はないのだが、妙な勘は備えている気質で生まれたようで、自然の機微に敏感。
『いいねえ、ここらへんの漁場と海の雰囲気。あー、わかる。姉ちゃんが、ここ縁の人たちと馴染んだのわかる。俺も、ここ、すんごく気持ちが落ち着くよ。この潮の匂い最高。いい漁場って風でわかる』――なんて、石狩漁村の空気を気に入っているのだ。
最近は伊万里一人でも、川端家に訪れていることもあるくらいだった。
その度に、川端のお嫁さんに可愛がってもらっている。それはもう、幼少の頃から可愛がってもらってきた朋重と匹敵するほどだった。
そんなお母さんたちは朋重にも、いつもの気の良さを見せてくれる。
「朋君も、すっかり荻野のお婿さんだねえ」
「結婚式に呼んでくれて嬉しかったよ~。千歳さんとのお仕事も順調で良かったね」
「ありがとう。最近は忙しくなって漁船に乗れていないのがね……。千歳も船に乗りたがっているから、また時間を作っておっちゃんに会いに行くよ」
「うんうん。千歳ちゃんもいつでも来てね。タコ天いっぱい準備しておくよ」
「今度は、タコカレーもいいんじゃないかな」
タコカレーってなに!!!
伊万里と共に過剰反応、姉弟で目を光らせたら、『あら、大食い姉弟さん、気になっちゃった?』、『これは近いうちに、またうちに絶対にくるね』と、お嫁さんたちに笑われてしまった。
今日も荻野本社のテストキッチンという違う場所でも、川端家のお嫁さんたちと和気藹々。
だが本題へと早々に移っていく。
せっかくの札幌に出てきたからとお洒落をして来たお嫁さんたちだったが、そこはきちんと自前の『割烹着と三角巾』を持参して、身支度を調え始める。
「では、始めるよ」
リーダーはやっぱり大姑の富子おばあちゃん。
ころっとした小柄なおばあちゃんを筆頭に、亜希子ママが第一アシスタント、ミチルが第二アシスタントとして並んだ。いつも川端家の台所で見られるスタイルがここにも登場。
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