①石狩漁村お嫁さんズ到来

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 伊万里は記録するために動画を撮影。千歳もエプロンをして朋重と共にメモ帳を持ってしっかり観察となる。  生の蛸足の下処理から始めるおばあちゃん。  手際の良さ、ちょっとしたコツ。油の種類、温度を教えてもらう。  自分たちが作ったものより、かなり理想に近いものが仕上がった。 「でね、ばあちゃん、お話をもらった時にちょっと思ったんだけど。今日はオリーブ油で揚げたでしょ。だから、ここに塩と一緒にバジルとかブラックペッパーを散らしてみるね。お洒落っぽいしょ、いまどきってかんじっしょ」  おばあちゃんなりにいろいろと考えてきてくれたようで、素敵な提案に、千歳も朋重も伊万里も感動。  そろって皆で、おばあちゃん指南の『蛸チップス』を頬張ってみる。 「うまい! さっすが富子おばあちゃん!!」 「ほんとだ。からっとした。俺たちも同じような調理法だったのに。下処理? 使った油? 全然違う……」  伊万里も朋重も絶賛だった。  千歳も『おいしい!!』と飛び上がりたかった。  でも。……それも一瞬だけ。すぐに違和感が襲ってきた。  おなじように感じるはずだと思っていただろう伊万里と朋重も、千歳の様子がおかしいことに気がついた。 「姉ちゃん……? うまい、だろ……」 「千歳、どうした。千歳がうまいと思わないと、企画が成り立たなくなるわけだけど。なにかあるなら遠慮なくはっきりと伝えたほうがいいよ」 「千歳ちゃん……。やっぱりなんか足りなかったんかな。ばあちゃんも指南を頼まれたからには、はっきり言ってほしいわ」  富子おばあちゃんが哀しそうな顔をした。  不味いとか気に入らないと言われるより、指南を引き受けたのに気遣われてはっきり言ってくれないほうが哀しいと言いたそうだった。
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