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②長子の母になる
夫の朋重に付き添われ、産婦人科で診察をした。
見事、『妊娠三ヶ月』と診断が出た。
『はい、おめでっとさん!』
その夜のことだった。眠っていたら、福神様が扇子を両手にもって『めでたし!』とキメたポーズで登場。
『千歳、そこお座り』
何故かパジャマ姿のまま、海の水面へと正座させられた。
夢なのに、千歳の長い黒髪が潮風に吹かれてなびく感触も、風の生暖かさも感じられる不思議な空間。
初めて福神様を夢で見たときに出会った海の上だという感触もあった。
『ついに私たちも後継者を育てる番に来たようだわね』
そうですね――と答えたいけれど、夢で千歳は声を発せられない。いつも黙って聞いていることになっている。
『予兆はあったんだけど黙ってたんよ。見ていたらなんとなーく、ちゃんと居てくれるのか居てくれないのか不安定だったもんだからね。現代医学がどんなもんかもちょいと興味もあったんよ。どこのあたりで、確定してくれるんかな~と。あれ、心の臓が動いていることで大丈夫ってことなんね。まめっこいのが、ぴょこぴょこ脈を打って動いているの、めんこいわね! 感動したわ~! 全力で守りにいきまっせ!!』
それは流産の恐れもあったということ?
千歳は青ざめた。確かに仕事で根を詰めていたところがある。夫と『そうなる行為』をしていたくせに、自覚がなかったということになる。
『これから、もう少し慎重におなり。ひとまず生命が宿ったけれど、今後だって、私も、医師も、絶対大丈夫は言えんのよ。守るのは母親の千歳なんやから……』
いままで見たこともない、優しい笑みを福神様が見せてくれた。
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