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福神様はおじさんに近い存在だった。小学生の時からずっと、千歳のそばにいてくれた頼もしいおじさんだ。その神様に言われ、千歳はこっくり無言で頷いた。
しばらくおいしいものも我慢して、バランスの良い食事と『適切な量』と規則正しい生活を心がけます――。
いつも心の中で唱えている。でも福神様にはお見通し、聞こえているよう。
『えー、寂しいなあ。私も我慢かなあ。耐え忍びますわ。お子のためですもんなあ。麦酒、しばらく我慢なの、きっついわ~』
お供えでは駄目なのですか。
『私と千歳は一蓮托生でないと、成果は生まれんのだよ』
常に一心同体。お互いが違うことをしていては、ご加護はないとも聞こえた。千歳のために、食いしん坊を我慢してくれるとまで言ってくれているのだ。
福神様は、どうして私のところに来てくださったのですか?
私のお腹の子にはどんな神様がついてくれるのかご存じなのですか?
聞いた途端、持っていた扇子で顔を隠し、意味深な笑みを刻む口元だけ見せて、その日の福神様は海上の空へと柔らかい光を纏って消えてしまった。
「千歳?」
目が覚めると、暗がりの中、隣で眠っていたはずの朋重が千歳の顔を覗き込んでいた。
「朋君……」
「唸っていたから。気分が悪いのかと思って……」
「福神様が来ていたの」
彼がちょっと驚いた顔をした。彼の瞳は明るい色だから暗がりの中でも良くわかった。
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