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わざわざ婿入りしてくれた大事な大事なお婿さんなので、父と母はいつも彼に気遣ってくれている。
だから朋重も気負わずに、いつもどおりの朗らかな余裕で両親に接してくれる。
「僕が来る前から、千歳さんも完璧なお嬢様でしたよ。彼女も僕が出来ないときは、誰よりも気がついて助けてくれるから、いまの生活を楽しく過ごせています」
余所様の男児をいただいた側なので、婿殿もつつがなく過ごしていると知り、両親もほっとしている。
そんな父母の視線が今度は娘へと注がれる。
「千歳、具合はどうかな」
「もうつわりが始まっているのでしょう。あなた、頑張りすぎる時があるから、お仕事もほどほどにしなさい。伊万里も細野さんもいるのだから。ね、あなた。あんまり千歳に無理をさせないでくださいね」
美しい母の不安げな表情には父も弱いようで『うんうん。大丈夫だよ』と母の手を握っているのだ。
千歳は、伊万里もだが、両親のこうした熱愛ぶりは子どもの頃から見てきたのでなんら違和感はないのだが、朋重はたまに『直視していていいのかな』と戸惑っているときがある。目のやり場に困るようなのだ。
「働く千歳を労ることは、女性社員が多い荻野の『女性のための働き方』を確立していくことにもなると思っているんだよ。もとより、母さんが社長のときからそうだよ。我が社はそもそも『女性』が守ってきたんだから」
「そうでしょうけれど。やっぱりお仕事も大事だもの。自分の居場所がなくなっちゃうと頑張っちゃう女性たちの心情を忘れないであげてくださいね」
「わかってるよ、凛香」
いつまでも手を取り合って二人だけの世界にいるので、そろそろ空気を変えようかと、千歳から父に尋ねてみる。
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