③神様の宴会で

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「大丈夫だよ、千歳なら。俺も、どちらが生まれても長子は長子で、次子は伊万里君みたいに育てたいと思っているよ。千歳も伊万里君も、跡継ぎとか関係なしに、それぞれの立場を弁えつつ、仲がいいだろう。そんなふうに育てたい。お義父さんとお義母さんが、荻野を支える姉弟として、役割を理解させつつ分け隔てなく育てたことがわかるよ」  こちらも理解ある夫、婿殿で、千歳もほっとして彼の胸によりかかってしまった。  しっかり者の長女である娘が、婿殿に甘える姿を知って、両親がちょっと驚きの顔をした。でもすぐに微笑ましいとばかりに顔をほころばせる。 「うん。大丈夫そうだな。朋重君がそばにいることだしな」 「そうね。どちらが生まれても、長子も次子も女児男児も関係なく、なんなら、神様がつくつかないも関係ないのよ」  千歳の中にもうひとつ残っていた不安『ほんとうに神様がつくの?』という心情を、母は見逃さずにきちんと汲み取ってくれていた。それにも千歳は安堵する。 「そうだな。神がつかなくても、私たちの使命は変わらない。誠実に製品を作り届けていくだけだよ。神がつかないなら、どこかで驕る気持ちがあることを、一族で考えていかねばならない転機だと思うことにしようじゃないか」  父もそう言ってくれた。神もつかない子を産んだら……。千歳が責められ、その子も疎まれるのか。その不安も解消していく。  父が言うように、そうなったらそれはそれで『一族の問題』。千歳だけではなく、親族一同で考えていくことなのだとわかった。  せっかく来てくれた両親にと、朋重がまた浦和水産の料理人が作ってくれた『懐石弁当』でもてなしてくれる。  両親との和やかなひとときを過ごし、父と母は嬉しそうにして帰った。  片付けも朋重が率先してやってくれる。  千歳も隣で手伝いながら、栗毛の麗しい夫を見つめた。
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