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それに気がついた朋重が、訝しそうに首を傾げている。
「ありがとう、朋君。私、変に不安になっていただけだったね」
「わからなくもないよ。あの荻野の跡取り娘、いつもそのプレッシャーを感じて育ってきたのだから。今度は跡取りを育てていく責務が加わるのだから、また気構えが必要と思うのだろう、千歳は。責任感が強い長子で長女だとわかっているつもり。だからこそ、俺がいること忘れないで。俺も荻野の父親として、千歳とおなじように背負っていくことを。俺はそのつもりで婿に来たんだよ。一緒に背負える男だと思って、婿に選んでくれたんだろう?」
うんと頷き、千歳はまた彼の腰にだきついて、彼の肌に頬ずりをした。
甘えられる婿様で良かったと、今日も感じている。
千歳が抱きつくと、朋重もすぐにその胸の中に優しく包んでくれる。
いままで、祖母から父から厳しく育てられてきた千歳には、こんなに甘えられる人は初めてなのだ。
だが朋重がふっと不思議そうに呟いた。
「でも。千歳のお母さんって、なんか不思議な人だよな。本物の美魔女だし、いつまでも四十代みたいなお姿でさ。遥万お義父さんとの出会いも、如何にも荻野的エピソード。夢で見た聖女とそっくりの女性に出会うなんて不思議だよ。むしろ、お母さんのほうに神秘的なものを感じるなあ」
そんな夫の言葉に、千歳も初めて口にしてみる。
「そう、なのよね……。母って、天然さんぽいんだけれど、時々、怖いこと言うの。なんか、当てるっていうの? なに変なこと口走っているのと、その時は思うんだけれど、あとで思い返すと当たっているというのかな」
「と、言うことは。男児が生まれたら、そんな女性を引き寄せる力を持って生まれるってことなんじゃないか! だとしたらさ、男児が長子で産まれても安心じゃないか」
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