③神様の宴会で

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「それはもうわかって育ってきたつもり。お父さんとお母さんもいるし、伊万里も、朋重さんもいるから大丈夫って、この前で思えたから。でも、大人になったつもりだったのに、やっぱりお母さんが助けてくれるのが嬉しくて――」  そんな娘を、母は夢で見た女神様そっくりな優美な笑みを浮かべて、今日は久しぶりに千歳の黒髪を撫でてくれた。 「お母さんね。お願いしておいたから、大丈夫よ」 「お願いをした? 誰に」 「内緒。それに、心配しなくても、荻野は荻野で決まっているの」  ほら。また母がわけのわからないことを言いだした。 「もうね、お腹にいる時から、お母さんはわかっていたのよ。千歳には神様がきちんとつくって。だってお腹にいるときから、あなたは賢くて、しっかり者だったの」  ほらほらほら! また訳のわからないことを言いだしたと、千歳の目に滲んでいた涙が引いていく。きょとんと母を見つめるだけになっていた。  それでも母はなんのその。いつもの朗らかな微笑みで、何の気なしに続けていく。 「胎動が始まってすぐにね。あなたがお腹から聞いたの。『ママって呼んだらいいの?』って。女の子の声で。私とお父さんが、お腹に向かって『パパだよ、ママだよ』と話しかけていたこと、あなたはちゃーんとわかっていたの。生まれたら女の子だったし、あなたはほんとうに育てやすい賢い優等生で、自慢の娘になったわ。もちろん、『人間らしく』、反抗期もあったけれど、立派な跡継ぎ娘になって、素敵なお婿さんもつれてきた。あなたもおなじように、子どもを産んで育てられるわよ」  だから心配しないの、私たちと神様がついているじゃないと、ずっとにこにこして優雅に緑茶を飲んでいる。  摩訶不思議なことを言い出す母だと思ってきたが、夢を見た後だったので『変なことまた言ってる』だけで、流せなくなる。
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