④浦和水産の困り事

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「仕入れで争うわけではなくて。その品評会での『印象づけ』なんだよ。いわば、魚介と肉、どちらが格上か、どうしても決めたがる社長がいてね。しかも出品する『肉の量』がすごくて、なんというか試食会なのに、勝手に派手なBBQスタイルに固めてきて大盤振る舞い。アピール方法が強引なんだ。それで魚介をたくさん食べられないよう、無理に肉を勧めてくる。断ると、『これぐらい食べきれないなんて、当社の食品をきちんと精査できるお力が、水産会社さんには欠けているのではないですか~』と、毎年毎年言われてね。こちらも食べ盛りの若い社員を連れて行き、品評会で出されるあちらの肉を試食して、それなりの感想を伝えるんです」  千歳も『あ、なんかその会社、感じワル』と不穏な空気を感じてきた。だが千歳はおなじように食品を扱う企業の一員として、その社長が変にマウントを取ったところで、そんなこと無駄な行為ではないかと思い、義兄に尋ねてみる。 「ですが、食材の質とコストを精査するのは、ホテルや旅館の食材バイヤーですよね。出品する業者側はただ試食するだけ、秀重お義兄さんに勝ち誇っても、アピールすべき対象者は、食材バイヤーですよね?」 「出品した業者側もひととおり試食をするからね。勉強の場でもあって、交流の場でもあるから、それなりの感想を伝える力も要するんだよね。千歳さんなら、荻野のお祖母様に、お父様に連れられて経験があるとは思うんだけれど」 「確かに。精査する立場ではありませんが、交流という名目で、出入り業者同士、お互いの商品についての感想を伝えるのは、挨拶代わりとなっていますものね」
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