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浦和水産ブースでは、伊万里がすでに小ぶりの海鮮丼を食べ始めていた。調理師は『上限なし食事会』の時に担当してくれていた男性だったのですでに顔見知り。彼も伊万里が一目散に飛んできて嬉しそうに笑っている。ブース担当の社員さんも、社長の秀重義兄と副社長の朋重がそろって来たので、ほっとした表情に崩れた。
滅多に会さない他業者に囲まれて緊張していたことも窺えた。
秀重義兄もブースを整えて準備をしてくれた社員を労る。
「昨日から会場入り、準備ご苦労様だったね。ディスプレイのかんじいいね。おにぎりが美味しそうだ」
「バイキングやブッフェスタイルの食事で並べてもらえるように推薦する予定です。ルームサービスもいいなと思っているんです」
「うんうん。ルームサービスでもいいね」
落ち着いた紳士姿の秀重義兄が、ブースをひと眺めして微笑みながら頷いた。それだけで、社員もほっとした顔になり、彼も笑顔になる。
こうして見ると、やはり大人の義兄は頼もしい社長さんだなと千歳も安堵する。朋重実家の事業は、このお義兄様がいれば安泰だと感じられる。
社員の表情からも慕われていることも伝わってくる。
だがその頼もしい社長さんの表情が若干曇る。
「……ところで、どうだったかな」
「はあ……。まあ、離れてはいるんですけれど、ブースセッティングの準備中に覗きにやってきて、やいやいは言われましたね」
秀重義兄の小声の問いに、社員男性もため息をついてげんなりした表情に変わった。
秀重義兄の視線がそっと、浦和水産ブースとは対角線上にある遠いブースへと目線が向く。
今日の会場は入り口の壁面以外は、三面レイクビューのガラス面が囲うホールだった。あちら精肉業者さんも、対角線上ではあるが、バルコニーがすぐそこにあって窓が開けられる良い場所にブースセッティングをしている。
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