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「はい。弟です。副社長を務めております。申し遅れました」
そこで朋重から、スーツの胸ポケットから名刺ケースを取り出し、長谷川社長に名刺を差し向けた。
肉を焼いていると長谷川社長がそれを受け取った。
堅い表情のままで、まったく愛想がない男性――というのが千歳の印象。口元をへの字に曲げて不機嫌そうに朋重の顔ばかり眺めている。
「へえ。弟さんもお綺麗なお顔なんですねえ。いいですねえ、混血の方はモデルさんみたいなお顔で。お綺麗な女性連れですかあ」
普段からそんな嫌味なねちっこい会話の仕方なのかと、千歳も頬がひきつりそうになったが堪えた。でも、こんな時でも朋重はいつもの爽やかな笑みを崩さない。隣にいる千歳の肩をそっと抱くと、長谷川社長に堂々と告げた。
「妻です。今日は彼女も様々な業者さんと触れ合い、勉強をしたいとのことで、兄に許可をもらい一緒に参加しております」
「妻!? え、浦和の弟さん、ご結婚されていたのですか!」
何故かそこで不機嫌そうだった長谷川社長の表情がぱっと変化した。
まるで警戒が解けちゃって、素の表情がでちゃったというかんじに千歳には見えた。
そんな社長が朋重と千歳を交互にじろじろ見ている。
「ふうん? 奥様、食品卸業者に興味あるの? なにかお仕事されていて、参考にしたいとか?」
また、じっとりとした目線を千歳に向けてきた。
雰囲気、容姿、服装、全部解析にかけられている気分だった。
さらに長谷川社長は、千歳より前にでて鉄板で焼かれている肉に目を輝かせてわくわく顔の伊万里にも目線を向けている。
「こちらの男性も浦和さんの関係者さん? それとも新入社員さん? 初めて見かけるけど」
「彼は妻の弟です。僕の義弟になりますね」
「ええ? 弟さんもちゃっかり連れてきちゃったってこと? ただ食べ物にあやかりたいだけじゃないだろうね。そんな集まりじゃないよ、今日はっ」
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