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そこで千歳も持ってきていた名刺をバッグから取り出して、一枚、長谷川社長に差し出す。
「実家が製菓会社を経営しております。荻野千歳です。私も社員です」
今度は名刺をじっくりと確認してくれた長谷川社長がまた仰天した顔を千歳に向けてくる。
「あの、荻野製菓のお嬢ちゃんってこと!? え、え、浦和さんと親族になったということ?」
「そうなります。お見合いで出会いまして、昨年、結婚したばかりです。今日は義兄の浦和社長が、卸業者の品評会に参加してみないかと誘ってくださったので、勉強でつれてきてもらいました。私もほかの観光宿泊地などの品評会は祖母や父についていくこともありますから、今回はお義兄様にお願いいたしました」
「お見合い! なに、有名企業さん同士ってやっぱりそうなるんだ!?」
たしかに実家同士が経営提携も視野に入れて『この家の娘、息子がいい』とやりとりしたうえでの、政略的お見合いだったのは否定はしない。
「あ、じゃあ。この弟君は、荻野のおぼっちゃんってこと?」
そこで伊万里も、姉と朋兄ちゃんに負けるかと、きりっと名刺を社長に差し出した。
「荻野伊万里です。姉の補佐をしております」
「はあ? お姉ちゃんの補佐? 君、長男だったら跡取りじゃないの」
あら。『荻野は長子相続』とか『女系相続』とかいう噂もご存じではない社長さんらしい。珍しいなと千歳は驚いた。
そこも伊万里がいつもの天真爛漫さでからっと答える。
「我が家は長子相続で、先に生まれた姉が跡継ぎと決まっているんですよ。だから、次子の自分は姉の補佐と決まっています」
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