⑥お肉屋さんの挑戦状

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 そんな彼女から伊万里が『いただきます』と紙皿を手に取る。  千歳にも差し出されたので、思わず受け取ってしまう。  ああ、煙の匂いといい、脂のかんじといい……吐き気が……。  しないな? あれ? 千歳は不思議に思いながらも、一切れだけ渡されたサーロインの肉を頬張る。  伊万里も同時に口に放り込んでいた。姉弟揃って、口に入れて、ひと噛み、ふた噛み……。またもや揃って、目を見開いて驚きの顔になる。 「うまい!!」 「おいしい!!」  同時に姉と弟で顔を見合わせる。  姉弟の反応に、途端に長谷川社長は腕組み鼻高々ご満悦な笑みを見せ、お嬢さんも嬉しそうな笑顔をぱっと咲かせた。 「サーロインって脂の旨みが売りだったり、逆に難点だったりするじゃん。これ、脂が美味いほう!! 上品な脂感! 脂なのに、あっさりと表現したくなる」 「そう、それ!! だって私、フィレ派だもん。でも、このサーロインなら三枚ぐらい食べちゃうかもしれない」 「俺、1ポンドで三ついけちゃうな~!」  と、ふたりでキャッキャと肉の旨みの感想を言い合っていたら、長谷川社長がまた荻野姉弟を睨んでいる。  美味しい余韻に浸っていたふたりだったが、社長の視線にひやっとして口をつぐみ勢いを収める。 「おい、君たち。いま聞き捨てならんことを言ったな」 「え、俺、でしょうか」 「私、も、でしょうか……」 「そう。奥さん、いま『三枚いける』とか言いましたよね。弟君、君、まさかの1ポンドを三つとか言ったね」  い、言いました――。  二人で怖々と返答すると、社長が目をきらっと輝かせ、隣のお嬢さんに言い放つ。 「面白い。木乃美(このみ)、焼いてやれ。サーロイン、フィレ、モモ。それぞれ1ポンドで焼いてやれ!」
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