⑦あっぱれ和牛!

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⑦あっぱれ和牛!

 長谷川精肉のお嬢様、木乃美(このみ)が大きなトングを片手に、肉の塊を豪快に鉄板に乗せた。  その隣で長谷川社長も盛り付けの準備を始めている。  テラス席で待っていろと社長に言われて、わくわく待っている伊万里を目の前に、千歳と朋重も並んでテーブルについた。 「千歳、大丈夫か。あの様子だと、千歳にもステーキ肉三枚、焼いて持ってくるぞ。つわりで食べられなかったら、俺に回していいからな」 「うん。大丈夫。無理はしないから。でも……不思議。あのお肉をひとくち頬張ったら、久しぶりにお肉を食べたくなっちゃったの」 「それって、まさかの福神様が一時的に『おいしいく食べられる解除』でもしてくれたのか? それとも、やっぱり長谷川さんの肉がそれだけ食べやすいってことだよな」 「うーん。どっちもかな。とにかく福神様、お肉を楽しみにしていたから……」  いまも脳内でナイフとフォークを持って『おーほほ、待ち遠しい、待ち遠しい』と正座をしてお待ちなのだ。  そんなふうにして待っていると、まず伊万里の目の前にどーんと1ポンド肉が鉄板皿におかれてやってきた。 「おおおっすっげえ。やっぱり迫力あるーー!」 「そうだろう~。これぐらい、がっつり食べてくれると気分がいいねえ」 「あの、品評試食会でバイヤーさんたちのために準備されたお肉ですよね。義兄や姉に付き添ってきただけの自分がこんなに食べちゃってもいいんですか。ほんとに……」  目の前にあるのは、長谷川社長が手塩をかけて育てた高級和牛だ。正規の価格で食べに行こうとしたら、相当な値段になるものを試食でだしてくれることになる。さすがの伊万里も今更ながらに怖じ気づいたようだった。
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