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「はい。そうです。玉ねぎとトマトのドレッシングです。レストランではグレイビーソースも準備しております。ドレッシングソースも長谷川ステーキハウスでもオススメしているんです。でも、今日のドレッシングはちょっとアレンジしておりまして……お試しいただけますか」
お肉に精通していそうなお嬢さんのオススメだからと、伊万里と千歳、そしてお腹いっぱいといいながらも『おいしそうなソースだな』と食欲を取り戻した朋重とともに、三人一斉にドレッシングをかけたローストビーフを頬張った。
「……ん?」
最初に伊万里がなにかに気がついた。
「あら、ん? これ……」
千歳もだ。ドレッシングの味は初めてのものだが、うっすらと既視感を持った。
荻野姉弟だけではない。夫の朋重もだ。
「これ……って……」
三人で顔を見合わせる。おなじことに気がついたのだから、確実におなじことを感じたはずのに、それでも確信が持てない。その答えを求めるように、そばにいる木乃美を三人一緒にテーブルから見上げる。
眼鏡の彼女が、にっこりと。こちらもちょっと得意そうな笑顔を見せている。
「すごい。三人そろってお気づきになられましたか」
彼女に試されている? それともこれは彼女からの荻野に向けたコミュニケーション? それとも……偶然? 戸惑う三人の目の前で、彼女がエプロンのポケットから、ひとつの瓶を取り出した。
「生のトマトも刻んで入れてはいますが、ビネガーとの調合に、こちら『荻野製菓 畑スイーツ スマートトマトジャム』を使わせていただきました。こちらお料理にもすごーく重宝しております。甘みも旨みもあって、ジャムとしてだけではもったないほど汎用が高いんです」
千歳と伊万里が開発した『トマトジャム』の瓶だった。
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