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「それ、俺のトマト!」
叫んだ伊万里に、木乃美が目を見開いた。
「え、弟さんの?」
「そのトマト、原材料として俺が育ててんの。畑も俺が管理してるんだ」
「そうだったんですか! スマート農業で管理されて作られたトマトということでしたので、興味が湧いて購入しましたら、お料理にすごく汎用性があってとっても便利なんです。特定の農家さんと契約されて栽培されているのかと思っていました。社長のご子息様自ら栽培されていたなんて……」
そこで朋重も割ってはいってくる。彼も覚えがあって当然なのだ。
「わかります。自分も彼女とお見合いをする前から、そのトマトジャムに興味を持って、料理に使っていました。うちも今日、試食にそのトマトジャムを使ったスモークサーモンマリネを持ち込んできていますから」
「え、浦和水産さんも! でも、私とおなじですね。これひとくち食べた時から、ジャムとしてだけでなく、ソース類に適していると思いましたから!」
「ちょっと待っていて。うちのブースから、スモークサーモンのマリネ取ってくるから」
千歳が止める間もなく、夫の朋重は凜々しいスーツ姿で颯爽とテラスからホールへと戻ってしまった。
ガラス越しにホールを眺めていると、いつのまにか長谷川精肉のブースに人が集まっている。
「豪快ですね。その大きさでどれぐらいですか」
「1ポンド、453.6gですね」
「いや~、よほどお腹が空いていないと無理かな~」
「なんなら、皆さんで山分けで如何でしょうかね。この塊で焼くとステーキらしい味わいを楽しめますよ」
伊万里の呟きから思いついた『山分けシェア』をさっそくバイヤー向けに提案している。
だが長谷川社長は、いま手元で焼いていた肉をまた鉄板皿にのせてテラスへと向かってくる。
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