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「弟君。これ、『ひらめき』の御礼で、おまけな。A5のフィレ。今日持ってきた中で最上級のステーキ肉だ」
「え! よろしいのですか!? 俺、もうサーロイン、フィレ、モモのローストビーフ、それぞれ1ポンド食べちゃいましたけど」
「ふふん、いいんだよ。ほら、見てみな。うちのブースとテラスの入り口を――」
長谷川社長が意味深な笑みを見せつつ、伊万里に囁いた。
言われて、千歳も伊万里と一緒にテラスの入り口へと目線を向けると、そこには社員証を首にかけている男性社員たちや、バインダーを持って評価づけに回っているだろうバイヤーたちがこちらへと注目していたのだ。
『うそだろ。あれ、さっきから次から次へと長谷川さんが持って行っていたよな』
『俺、二つ目持っていくところ見ていた』
『そのあと長谷川のお嬢さんがローストビーフをカットしていたぞ。けっこうな大きさの塊。あれももう食べてしまったみたいだな……』
『え、じゃあ、社長が持っていったあの肉、何個目!?』
社長がさらにニヤニヤしながら、わざとらしく声を張り上げた。
「あー、そうか。やっぱり、うちの肉、食べやすいでしょう。いくらでも食べられるだろう! なあ、伊万里君!」
「はい! もう最上級、食べやすさ、雑味のない脂の旨み、ビロードのような繊細な肉質! どれを取っても、俺の中で最上級!!」
「よし。4ポンド目、行きたまえ!」
4ポンド目!? あの若い男性、どこの誰!?
長谷川精肉ブースとテラス入り口で男性達がどよめいた。
そのうちに、バインダーを持った白髪まじりの男性がテラスに入ってきて、長谷川社長に話しかけてきた。
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