⑦あっぱれ和牛!

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「長谷川さん。さきほどの、1ポンド山分けシェア、試食させてください。あの大きさは勇気がいるけれど『山分け』ならとっつきやすくて、食べやすそうですね。お願いします」  俺も、俺も、我が社も、うちのホテルも是非是非――と、長谷川精肉のブースにひとが集まってる。  それを見た長谷川社長が『してやったり』と言わんばかりの勝ち誇った笑みを浮かべたではないか。 「いや~、最高、最高! どっかり人々に味わってもらえるのは最高に気分がいいね~!!」  もう社長は上機嫌で、空に向かって『わっはは!!』と勝ちどきとばかりに高らかに笑い声をあげた。 「もう~、お父さんったら。私、焼きに行ってくるね」  そばで静かに控えていたお嬢さんが、父親が嬉しそうなので彼女も嬉しいのか、楽しそうに笑ってブースの鉄板焼きへと戻っていった。  まだそこで興奮気味の長谷川社長がそばに残ったのだが――。最上ランクのフィレステーキをわくわく顔で頬張る伊万里を、またじろじろニヤニヤと見下ろしている。 「ふーん。荻野の長男さんか。伊万里君、こんどうちの牧場においで。もっと食べさせてやるからさ。すき焼きも極上なんだよ」 「え、すき焼き! それはもう! 喜んで行っちゃいます!!」 「意外とお姉さんも食べてるよね~。女性の標準を軽く超えてるじゃないか。へえ、荻野さんのお嬢ちゃん、おぼっちゃんは、なかなか面白い」  そして社長がいきなり言い放った。 「気に入った! 近いうちにお父様に連絡しますわ。うちの娘と見合いをしてくれませんかね!」  姉弟で頬張っていた和牛ステーキを吹き出しそうになった。  福神様……。お肉、気に入った、から、ですか?
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