⑧実は大ファン

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「はい。さきほど、なんだかんだ文句をいいながら、副社長さんが作られたスモークサーモンマリネを頬張っておりましたでしょう。あれ、好物なんです。父の晩酌には、浦和水産のスモークサーモン、ひとくち筋子、鮭とば、ですもの。絶対にかかさずに冷蔵庫に補充してますから」 「そんなに! 兄が聞いたら喜びますよ、それ!」  文句をいいながらも、朋重のマリネを頬張った途端に、黙り込んでいた長谷川社長の姿を千歳も思い返していた。  あれ、大好きだから黙り込んでいたのかと思ったら、なんだか笑いそうになってきた。  気持ちが行き過ぎて熱くなりすぎて口が悪くなってしまうのは難点だが、そうでなければ純粋すぎる熱血社長じゃないかとイメージが変わってきた。  長谷川精肉ブースの前では、『1ポンド山分けシェア』のサーロインステーキを頬張るバイヤーたちの満足そうな笑顔がたくさん揃っていた。  配り終えた長谷川社長も満面の笑みだった。  その社長の隣に、背が高い男性が入ってきて社長と交代で肉を焼き始めている。 「あ、兄が来ました。浦和水産さんに父の気持ちを伝えたこと報告いたしますね」 「僕も、お嬢様から伺った長谷川社長の真意を兄に伝えておきますね」  社長同士だとどうしても社を背負って張り合ってしまうだろうところ、補佐についている娘と弟というそれぞれの立場で想いを伝え合うことができたようだった。  そこで息子と交代をした長谷川社長がまたテラスに戻ってきた。 「木乃美、浦和水産の社長と奥様もお呼びしてこい。義妹さん義弟さん、弟さん同様の肉を今年もすこしでも食べていけってな。そのついでに。あちらさんおすすめの商品をもらってこい。こっちは忙しくて手があかないからさ」
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