⑧実は大ファン

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「あれ。荻野製菓さんが販売しているものなの。原料のスマートトマトは伊万里さんが畑で育てて管理されているんですって。トマトそのものを食べてみたくって」 『伊万里が育てているトマト』ということを知ったからなのか、『俺様が気に入った男に娘から会いに行く』からなのか、長谷川社長が『なにいぃい!?』と素っ頓狂な声を上げた。  もちろん、父親が伊万里を気に入って見合いをさせようとしていることなど知らない木乃美は、父親の驚き方に目を丸くして唖然としている。 「え、なに。お父さん……。私、勉強になると思って……。荻野製菓さんの大事な畑だから、軽々しく行くのは駄目ってこと?」 「お、おおおおまえがつくっていたあのドドド、ドレッシング、伊万里君のトマトを使っていたということなのか??」 「今日だけね。直営レストランではまだ使ってないわよ。今日の試食用にだけ」 「よし! 行って来い、行って来い! そうかそうか。あのジャムのトマト、伊万里君が育てているのか!! よっしゃ木乃美、おまえも異業種の勉強してこい!」  長谷川社長が急に娘を伊万里へと押し出してくるので、木乃美が戸惑っている。  だがそんなときも、伊万里はけろっと答える。 「よかったら。お父さんもどうぞ。俺、農業専門なんですよ。お肉の御礼に、今度は俺のスマートトマト収穫し放題とかどうですかー」  長谷川社長、嬉しそうに飛び上がり『絶対に娘と行くからな!!』と、木乃美以上に伊万里と堅く約束を交わしていた。  でもお嬢さん本人はまだなにもわかってないご様子なので、父親が一方的に『お見合い的なもの』を進めそうで、同じ娘として千歳はハラハラ見守るしかない。  帰ったらお祖母様と父親に報告しなくちゃいけないなことができたと、千歳はため息を吐いた。
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