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もしこれが福神様のお導きならば。祖母の前に連れていけば、あとは縁神様が結ぶなり切るなりしてくれるはず。
それには木乃美だけじゃない。あの癖が強そうな父親も連れて行けば、家族親族も大丈夫であるか見定めることができるのではと、千歳も思い始めた。
その木乃美もエプロンをしたまま、朋重と伊万里が連れだして、一緒にブース巡りをしている。彼女がまた眼鏡の微笑みで食べているお顔の可愛らしいこと。
帰ったら父にまず報告して、お祖母様に判断してもらおうと決める。
湖からのやわらかなそよ風が気持ちよく、正午の陽射しも和らいできて、千歳の気分も回復してくる。
長谷川精肉のブースでは、長男の龍介がまだまだポンド肉を焼いている。次から次へとやってくる他業者社員にバイヤーをもてなしている。
その中には、義兄の秀重と義姉の桜子も一緒にいて、山分けシェアのステーキ肉の食べ比べをしていた。他社の社員さんやバイヤーさんとも感想を交わして賑やかな声が聞こえてくる。
今回は穏やかに過ごせているようで、伊万里も役に立ったなと千歳も安堵する光景だった。
それを眺めていたら、千歳がひとりきりで座っているテーブルに、レモンの輪切りが入っているドリンクが置かれた。
見上げると、ちょび髭の長谷川社長だった。
「驚いたね。妊婦さんだったとはね。ご主人と弟さんから聞いたよ。あれでも、妻にとっては姉にとっては『少なすぎるほうだ』って。弟君並みに食べられるんだってね」
朋重と伊万里がテーブルから離れる時、木乃美に『千歳は妊娠中だから、ここで少し休ませてほしい』と頼んでくれたのだ。彼女も驚いて『遠慮しないでここでお休みください』と許可をくれた。
それがどうも、長谷川社長に伝わってしまったらしい。
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