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「レモネードだよ。あちらの果樹園さんが、上川地方で獲れる蜂蜜で作って売り出しているんだってさ。木乃美が持ってきてくれた」
「ありがとうございます。いただきます。お嬢様、よく気のつく方ですね」
「ああ、良い子だよ。妻に似たんじゃないかな。俺はこのとおり、ひねくれ者だから」
ため息をつきながら、社長が千歳の隣の椅子に座ってしまった。
ご自分でそれ言っちゃうのかと千歳は笑いたくなったが、必死に堪えた。でも……。
「でも、ひとつの質にこだわる方は、融通が利かない方が多いですよね。決めたことに使命感が強くて、譲れないからなんだと思います」
「ふうん。そんな人、知ってるの。跡取りお嬢ちゃんも、いろいろ人を見てきたのかな~」
ほら。またちょっと嫌な言い方するんだよなあと千歳は苦笑い。
でもいまはもう、この人の真髄を知ってしまったので嫌悪はない。
「私の祖母がそうですよ。荻野の使命に対して融通が利かない。でも必死で守り通す。厳しくて気高い女性です。私ですら畏れ多く感じる祖母です。もちろん、お祖母ちゃまのお顔の時は大好きな祖母ではありますよ」
「へえ。わかるわ~。そのお祖母様の信条というのかなあ」
「僭越ながら。長谷川社長から、祖母のような空気を感じました。生意気を申していると思いますが、そうお感じなられたのなら申し訳ありません」
だが長谷川社長はまた、あの男らしい笑みを浮かべ、椅子のうえで長い足を組んで、テーブルに頬杖。そのハンサムな微笑みで千歳をじっと見つめている。さすがの千歳もちょっと気恥ずかしくなって肩をすくめてしまった。
「お嬢ちゃんも気に入ったなあ。君だったら、義理の姉になっても娘を虐めたりしなさそうだなあ」
えええ、義姉としてどうか見定めていたのかしらと、千歳は目を丸くする。なかなか気が抜けないおじ様だなと身構えた。
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