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「そう仰ってくださるのなら、お言葉に甘えさせていただきます。ご馳走様でした。ほんとうに素晴らしい和牛でした」
「なるほど。魔女ね。荻野の食べる魔女姉弟か。君たち、食のために生まれたのかな。羨ましいよ。荻野さんが……」
なんか。口の悪さとかを理解できるようになったら、凄く素敵な人じゃないかなと、千歳は変にドキドキしてきた。自分の父親のことも、実は『素敵なパパ』と思っているが、それに匹敵するかもなあと。そういう男の懐に入れられて、じっと観察されている気分なのだ。
そんな照れくささを悟られないようにと、誤魔化すように持ってきてくれたレモネードを口に含んだが、すごく美味しかった。
「美味しい!! えー、どこのブースさんですか。この蜂蜜ほしい!」
「気分が良くなったら、覗いてきな。無理しなさんな。お腹の子を大事にな。生まれたら教えてくれよ。3ポンドお祝いしてやるから。絶対、食べに来てくれよ。食べる魔女の本領発揮を見届けたいからさ」
「ほんとうによろしいのですか。本気にして楽しみにしちゃいますよ」
「いいよ、いいよ。約束だからな。それから。今日は、土産も準備しておくから持って帰りな」
え、お土産? 千歳が戸惑い問いただそうとした気配を避けるように、長谷川社長は『じゃあな』と素早く去ってしまった。
品評会も盛り上がりを終えて、バイヤーの評価も終わったようだった。
それぞれのブースが片付けをする中、一足先に、浦和水産社長と副社長の一行は札幌へと帰る支度をする。
その時だった。長谷川兄妹が、保冷用スチロールを浦和水産ブースへと持ち込んで来た。
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