⑨たくさん食べたら福が来る

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「父がいままで失礼な発言ばかりして申し訳ありませんでした。本人に謝れと言ったのに、まだひねくれておりまして……。これはお詫びと、荻野のご子息が長谷川のブースを盛り上げてくれた御礼とのことです。ご家族でどうぞ」 「受け取ってください。素直ではない父で申し訳ありません……。でも、今日はとてもお世話になったと申しております。私たち兄妹からもお願いいたします。お土産と思って受け取ってください」  保冷用スチロールの中には、ステーキ肉が家族分、そしてローストビーフの塊も入っていた。  秀重義兄は『そんな困る。こんな高価なものは受け取れない』と当惑して、長谷川の長男と『もらって、もらえない』の押し問答を繰り返していたのだが。 「お魚屋さん! ちゃんと食べてくださいよ! 食べられないとか言ったら恨みますよ!!」  遠く離れたブースから、ちょび髭社長の叫び声が届いた。  秀重義兄は桜子義姉と唖然としていたが、千歳と伊万里は吹きだしていた。 「ちょっと自分で言いに来ればいいのに、長谷川社長ったらさあ。子供たちにやらせてなんなのさ。なあ姉ちゃん」 「ほんっと。素直じゃないわよね。笑っちゃう」  既に長谷川社長と散々触れ合った荻野姉弟が、すっかり慣れ親しんだ反応を示したせいか、そこで秀重義兄も構えていた力を抜いてしまったようだ。 「ありがとう。山分けシェアのお肉、ほんとうに美味しかったよ。遠慮なくいただきます。御礼に今度は我が社レストランの海鮮丼をご馳走するから来てくださいね」  浦和水産社長の優しげな表情を知って、兄の龍介も妹の木乃美もやっと肩の荷がおりたようにホッとした顔をそろえていた。  お互いにそれぞれの挨拶を交わして、浦和水産社長一行は会場をあとにした。
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