⑩長子三代の目利き

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⑩長子三代の目利き

 長谷川家とのお食事会は、フォーマルなものに近かった。  朋重はきちんと上等なスーツを着込み、千歳もノーブルな黒のマタニティワンピースで整えた。  千歳のお腹はもう七ヶ月。季節も雪の季節を迎えていた。出産予定日は三月ごろ。  食事会を主催し準備をしたのは祖母、千草とのことだった。  今日は朋重もシックに黒のスーツを選び、でも明るめアイスブルーのネクタイを締めているところだった。姿見の鏡で結び目を確認しながら、彼も訝しんでいる。 「お祖母様が用意した食事会だけれど、伊万里君と木乃美さんのことかな。だとしたら電撃だよなあ」 「お見合いをしたとも聞いていないんだよね。結局、長谷川社長から連絡があったとか申し込みがあったとかもお父さんからも聞かなかったもの」 「夏の間に、例の『トマト畑に招待』していたんだろう。長谷川社長が木乃美さんとやってきて、大絶賛で楽しんで帰ったと伊万里君が報告くれたし」 「牧場にも招待されて、伊万里ひとりで行っていたものね。私も招待されたけれど、この身体だから今回は遠慮しますとお断りしたからね。それで伊万里一人で訪問したみたいだけど、秋口にご招待されていた『すき焼きパーティー』も美味しかったと嬉しそうだったじゃない」  品評会に交わした『スマートトマト見学においで』という伊万里の誘いをきっかけに、長谷川のお父さんを間に挟んで、家族交流をしていたふうにしか感じられなかった。  伊万里からは『長谷川社長がお嬢さんと畑に来た』とか『ステーキハウスに招待された。牧場も見学させてもらった』などの報告は受けていた。  伊万里も結婚とか女性とのつきあいには、前例を踏まえて慎重になっていることは、姉の千歳も義兄の朋重もよく知っている。
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