⑩長子三代の目利き

2/8
前へ
/916ページ
次へ
 なんとなく出会った相手、好んだ相手でも、跡取り長子たちが認めないと先には進めないこともよく知っているし、もしその相手が実家に認められなくても自分の気持ちを優先したければ、荻野を出て行く覚悟も決めなくてはいけないのだから。  なにかしらの報告があるのか、それとも……。  そして長谷川の家と付き合うとなれば、荻野家のしきたりや家訓について朋重のように理解してもらえるか、どう伝えるのか、伝えているのかも気になる。  祖母と父には『福神様が長谷川家をお気に召したみたい』とは報告をしている。千歳がそう言うならば安心だと祖母も父も聞き入れてくれたが、だからとて『私の縁神様はなんというか』と祖母はひとまず保留とし、父も『私の聖女様はなにもしないが、彼女に嫌われると私に近づけようとしないから、会ってみないとわからない』と言っていた。木乃美が荻野に入るとしてもまだまだ難関がありそうだった。  なんか落ち着かないなと、丸くなったお腹を黒いワンピースの上から撫でると、くるんとお腹のなかで動いたことが伝わってくる。それだけで千歳も笑みがこぼれる。 「ふふ、いま動いた。これから曾お祖母ちゃまご贔屓のレストランで、おいしいもの食べられるから待っててね」  千歳が愛おしそうに話しかけている姿を知って、朋重も歩み寄ってくる。千歳の背中から腕を回して、彼もお腹を両手で囲った。 「つわりが終わって、コントロールしながらの食生活だけれど、それでもママは美味しいものを選んでお腹に送り込んでいるもんな。ちぃちーちゃんにもおいしいもの届くかな」  朋重はお腹の子のことを小さいチーちゃんという意味で『ちぃちーちゃん』と呼んでいた。  パパの声がわかったのか、またお腹の中でもごもごと動いたのが伝わってきた。 「今日はお祖母ちゃまご贔屓のフレンチレストランだから楽しみ」 「俺と千歳が婚約する時に家族食事会をしたレストランだもんな。あれからお祖母様がなにかあれば連れて行ってくれて、俺もお気に入りだよ」  孫の誕生日や節目の祝いの時にも祖母が連れていってくれることも多いレストランだから、千歳も朋重もそれだけでも楽しみと言い合って出掛ける。 ---❄👶❄
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5113人が本棚に入れています
本棚に追加