⑩長子三代の目利き

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 跡取りの姉よりも自由気ままな次子の伊万里だったから、これまでも女性とのお付き合いは彼のお気に召すままだったはず。  その弟が今回はわざわざ長老である祖母にまずは『お伺いを立てた』ということだった。かなりの慎重ぶりだ。  前回、自分の意志で決めたことだからと深く考えずに連れてきた女性が嫁とも親族とも認められなかったことを考慮して、今度は木乃美を傷つけないようにと気遣っていることも伝わってきてしまった。 「そういうことみたいだね。まだ、おつきあいも始まっていない状態だよ。でも、荻野と付き合うことを彼女にきちんと説明した上で、正式に付き合いを申し込みたいとのことだったよ。その意志は伝えているとのことで、木乃美さんもその気持ちはあるとのことだった。だが先に『両家の許しをもらいたい』ということだった。それはあちらのお父様である長谷川社長も了承済みで、なおかつ、そこまで大事に慎重に考えてくれたと伊万里を褒めてくれていたよ」  だが、ここで祖母、千草の表情が一変する。  いつもの長の厳格を醸し出した。  祖母がその顔をすると、家長の父も妻の母も押し黙り姿勢を正し従う空気を醸し出す。孫の千歳もおなじく、その空気を敏感に感じ取れるようになった朋重もだった。孫夫妻も背筋を伸ばして祖母の言葉を待つ。 「千歳にはわざと早めに来るように時間を伝え、逆に伊万里には遅めの集合時間を伝えて、長谷川家を迎えにいかせた。千歳を早めに呼んだのは、長子三代だけで意志をそろえておこうと思ってね」  つまり伊万里と長谷川家が到着するまで、長子三代だけで話し合いたいことがあったということだ。
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