⑩長子三代の目利き

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「あ、ごめんなさい。だって……。あのお父様らしいなと思い出しちゃって。すぐに口に出てしまって、素直じゃなくて天邪鬼っていうか。俺たち家族と娘を品定めだと~、俺たちは品評会に出された肉じゃねえとか叫んでいるのが目に浮かんじゃった。でも怒るってことは、伊万里とお嬢様をなんとか結びつけたくて、お祖母ちゃまとお父さんに顔を通すのは必須だから、長谷川品評を我慢して受けてやろうじゃないかっという叫びなんだろうなって……」  すると朋重もお祖母様の目の前だからなのか、顔を背けて吹き出す口元を押さえて笑い出す。 「ごめん、俺もわかっちゃって……」 「ねえ。絶対にあの顔で来られるわよね。私、笑っちゃう」 「やめろ。笑ったら、また社長が大事な席でどうして笑うんだって怒りだすって」 「なんかもう。怒っていても怒っていないんだもんね」 「そうそう。ただ心の声を威勢良く出しちゃってるだけなんだよな~」  そんな孫夫妻が曲者の長谷川社長に対して恐れも抱いていない様子を知ってか、祖母と父の気構えていた表情が和らいでしまったのを千歳は見る。 「そうなのね。千歳ちゃんが笑い飛ばせるほどの気易さを感じるお父様ならば大丈夫だろうね。ですが。こちら荻野側の家の事情を理解してもらうためでもあるので、家を守ってきた諸事情についても誤解のないよう慎重に伝えられるようにしますよ」 「はい。お祖母様。それは承知しているつもりです。……伊万里はもうそろそろ?」  そこで父も腕時計の時間を確かめつつ、急に神妙に呟いた。 「ま、大丈夫だとは思うがね。朋重君もそうだっただろう? まずは『辿り着けるか』が第一関門だ」  祖母もまた厳格な顔つきに戻る。 「そうだね。伊万里が何度も会えていたとしても、千歳が対面済みでも、長老の私と家長である遥万のところにも、きちんと到着できるか、だ」
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