⑪荻野神様審判

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「ご無沙汰しております。品評会の時は大変お世話になりました」 「長谷川社長、いらっしゃいませ。妻とまたお目にかかれると楽しみにしておりました」  長谷川社長は千歳を見て喜びの笑顔を見せたが、さらに驚きの表情を一瞬見せて、また笑顔に輝く。 「おおお、お腹おっきくなっているじゃないか。順調そうだね」 「はい。おかげさまで、いまのところ特にトラブルもなく元気に育っています」 「浦和の次男さん、いや荻野のお婿さんだね。相変わらず、いい男ぶりだねえ。今度はいいパパぶりを見せて欲しいねえ」 「ありがとうございます。僕も彼女と楽しみにしているところです」 「うんうん。俺も楽しみにしているよ。絶対に絶対に生まれたら教えてくれよ。伊万里君にもそう伝えているから」  な、伊万里君――と、共にやってきた伊万里がいる背後へと、社長が振り返る。  そこには、普段よりさらに気合を入れた上質黒スーツを着込んだ伊万里がいた。社長のかけ声に笑顔を見せた伊万里は、千歳に朋重が良く知っている無邪気な弟ではなく、立派な凜々しい青年の顔でそこにいた。 「い、伊万里君……。本気だな」 「そ、そうね。もう間違いなさそう」  伊万里が立派な大人の男に見えるのは、仕事の時と、畑を農作業服で管理しているときだ。今日はそれに匹敵する。譲れない俺の想いがひしひしと放たれ伝わってくる。なにも聞かされていないが、もう木乃美に本気だと明白だった。  しかも、その伊万里のそばにいる女性にも、千歳は釘付けになる。  大人っぽいモスグリーンのワンピースドレスを着込んだ若い女性。清楚なメイクに、控えめに巻いてスタイリングした綺麗な黒髪。眼鏡をかけていないが、そこにいる品が良く愛らしい女性は木乃美だった。
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