⑪荻野神様審判

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 ひとつ異例なのは、伊万里は長谷川側の席についたことだ。長谷川側の中央に伊万里と木乃美が並んで座ることになっていた。伊万里の隣に長谷川の父、その向こうに長谷川のお母様が。木乃美の隣に兄の龍介が座った。  対して荻野は祖母を中央に、両脇に息子夫妻、孫娘夫妻という席に。  伊万里が向こう側に座ったのは、木乃美と並んで祖母に報告をしたいからなのだろう。  ディレクトールが下がり、入れ替わりでメートル・ドテルがテーブルに着いた。まずはアペリティフ。皆お揃いでシャンパンとなったが、運転がある朋重と妊婦の千歳はジンジャーエールとなった。  アペリティフが揃う間に、両家の挨拶が始まる。  祖母から『伊万里の祖母、荻野千草です。荻野製菓の会長を務めております』と始まり、父遥万、母凛香、姉の千歳、夫で義兄の朋重と挨拶を繋げていく。 「木乃美の父親、長谷川常太郎(じょうたろう)です。長谷川精肉の代表を務めています」 「母親の結衣(ゆい)です。夫と共に長谷川精肉に勤めております。経理をしております」 「兄の龍介です。長谷川精肉にて、父と和牛を育てております」  家族の紹介の最後は、伊万里と中央にいる木乃美へ。 「初めまして、長谷川木乃美です。家族とともに長谷川精肉に勤めております。このたびはお時間をくださりありがとうございます」  当然のことながら、木乃美は正面の祖母に畏れを抱いているのがわかる。  額の中央に黒子があり仏さまのような顔つきの祖母のことは、そこにいるだけで威厳を目の当たりにするせいか、だいたいの人々が萎縮する姿を見せる。  それは長谷川社長もおなじようで、いつもの勢威は抑えて慎む様子を見せている。
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