⑫信じてないよ

1/9
前へ
/916ページ
次へ

⑫信じてないよ

 小雪がちらつくテラスを眺めながら、両家の食事会が和やかに進んでいく。  そこでも祖母と両親、長谷川のお父様とお母様の会話は『今後の予定』だった。今回は『結婚を前提にお付き合いをする、お許しをもらう』ことと『両家顔合わせ』を済ませた形になる。正式な婚約を交わす結納はまた改めて行うという話し合いが交わされていた。  その間、千歳は朋重と共に、伊万里と木乃美を祝福し、弟をからかい、気兼ねのない会話で食事を楽しんだ。今回は初めて木乃美の兄・龍介とじっくりと談話することができた。  長谷川社長も奥様と共にすっかり笑顔になって、祖母と両親と親交を深めているようで千歳も安堵する。  長谷川社長と祖母は打ち解けられたせいか、仕事の話に花を咲かせている。気が合うようだった。母の凛香も木乃美の母親・結衣と母親同士の会話を楽しんでいる様子。  おいしい料理を堪能して、無事にお食事会はお開きとなった。  祖母と両親は神宮近くの実家へとタクシーで帰宅するとのこと。  長谷川家は伊万里がまたタクシーでホテルまで送っていくことに。  では、孫娘夫妻の千歳と朋重も車にて、植物園そばのマンションへ戻ろうと支度を始める。  ディレクトールとメートル・ドテルがレストランの入り口で丁寧に見送ってくれる。  小雪がちらくつ店先に到着しているタクシーへとそれぞれが乗り込んでいくので、千歳はそれを見送ろうとする。  祖母と母が千歳のお腹にそれぞれ触れてから『大事にね』と伝え、父の遥万も『無理をしないように。朋重君頼んだよ』と挨拶をしてタクシーに乗り込んだ。  長谷川家も同時に二台に別れて乗ろうとしていたのだが。 「俺は用事があるから自分でホテルに帰るよ。伊万里君頼んだよ」  長谷川社長だけタクシーに乗り込まず、そこに残ろうとしていた。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5115人が本棚に入れています
本棚に追加