⑫信じてないよ

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 伊万里が訝しそうにしていたが、社長はタクシーのドアを閉めると窓越しに伊万里へと微笑み手を振っている。  義理父になる社長が希望していることだからと、伊万里もそのまま木乃美をそばに会釈をして、発進するタクシーに乗せられ行ってしまった。  二台目の奥様と息子が乗るタクシーにも手を振って見送っている。  祖母と両親のタクシーも発進して去っていく。  気がつけば。小雪が降る中、そこに残ったのは千歳と朋重と、笑顔で手を振ってタクシー三台を見送ったちょび髭社長……。  長谷川社長が静まり返ったレストラン前の道で、千歳と朋重ににっこりと微笑んだ。 「さあ。千歳ちゃん、二次会をしよう!」 「に、二次会……ですか?」 「うん。聞きたいことがいっぱいあるんだわ。一時間だけでいいからつきあってよ。朋重君もいいだろう」 「えっと。あまり妻を疲れさせない程度であれば……」 「ここに来る時に、ここ近辺のカフェを調べておいたんだ。すぐそこにあるから行ってみよう。もうさ、やっぱり信じられんわけなのよ。神様とかなんなのかな!? あの威厳たっぷりのお祖母様、荻野会長の手前、飲み込んだ顔をしたけれど、やっぱり信じられん! 千歳ちゃんにも神様がいるってほんとう? お祖母様に言われて洗脳されちゃったとかそういうことないわけ? それに、婿入りした朋重君もそれを信じて荻野の一員になったわけだろ? 君、信じてるの? ほんとに? 婿入りしたくて信じたふりをしているんだろう。そこのところ、腹を割って話したい」  矢継ぎ早に捲し立てられたので、千歳も朋重も目を白黒させてたじろぐばかり。これはちょっとやそっとでは納得してくれないなと、千歳も観念する。  これも跡取り娘で、姉貴の役目かな。このお父さんをある程度は納得させなくちゃいけないようだった。
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