⑫信じてないよ

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❄・❄・❄  夜空からひらひらと小雪が舞い降りてくるが、まだ道には積もらない程度。それでも朋重が気遣ってくれ、千歳も彼が差し出してくれた腕に掴まって夜道を歩いた。  長谷川社長が前もって見つけていたというレストランそばのカフェへと到着する。  中心街から少し離れたすすきのそばのこの街は、たくさんの飲食店が立ち並ぶ。しかし激戦区でもあるため、お洒落でイマドキな店ができては立ち消えていくので、出入りも激しい。なのでいつのまにか見知らぬ店ができていたり、次に来たときにはなくなっていたりも多い。  長谷川社長が見つけた店も、千歳も朋重も初めて見る新しいカフェだった。 「札幌のこのあたりはよくわからないから、スマホートフォンで探したんだよ。いまふうで新しそうなんだ。若い君たちには馴染む店だと思ってね」  千歳はその店をひとまず看板まで見上げた。たしかにいまふうのシアトル系コーヒーを意識したスタイリッシュな店構え。だが千歳から見ると個性が出てるなという印象だった。  すごく派手とか奇抜とかそんなわかりやすいものではない。なんとなく、だった。店主のポリシーを訴える宣伝用の貼り紙が、店の窓にべたべたと貼られている。どれだけ頑張って珈琲をお届けしているかというものだった。焙煎の仕方に、豆の選び方、お客様に届けるまでの熱い気持ちが綴られ、ガヤガヤしている雰囲気を感じ取ったのだ。  朋重も浮かぬ表情をしている。彼も洗練された店をいくつも選んで通っていたので『店先の雰囲気が落ち着かない』と感じたのだろう。  それは長谷川社長も? 思っていたかんじと違うと不安そうだった。
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