⑫信じてないよ

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 夫の朋重が『妻付きの神様』がいて当たり前のような問いただし方をしたせいか、長谷川社長も千歳を窺うような眼差しを向けてくる。  不思議な一族、神様付の長子たち。そんなことあるかと信じていない男が、なにかを見極めるように凝視している。しかもあの怖い男の目でだった。  だが千歳も正直に答える。 「福神様はなにも言ってないけど。なんか違う声が聞こえたの。ダメダメって。その声が聞こえてから動かなくなっちゃったの。なんで??」  それを聞いた朋重が顎をさすりながらしばし唸っている。  やがて千歳の肩を再度抱き寄せると方向転換、店先から右側へ、この店に来るときに通って来た歩道へとむき直される。そこから朋重が千歳の肩を抱いたまま一歩踏み出した。同時に、千歳の足が軽くなって夫と共に一歩踏み出していた。 「え、え。動いた」  千歳も驚いているが、長谷川社長も目を丸くして動き出した千歳の足下を凝視している。  朋重だけが落ち着いていて、ため息を吐いている。 「社長、せっかく探してくださったのに申し訳ありません。どうもこちらのカフェとはご縁がないということのようです」  小雪がちらちら落ちてくる中、長谷川社長は目を丸くしていた。 「……そっか。んーじゃあ、ここではないカフェを探そう」 「も、申し訳ありません。社長。ふ、ふざけているわけではないんです。やだ、私の足、どうしちゃったの」  千歳も困惑。さきほどの福神さまではない声が聞こえたのも突然のことで動揺している。  それでも長谷川社長はスマートフォンを再度手にして、mapを開いて近辺のカフェを探し始めた。朋重もおなじく、スマートフォンで検索をしている。 「あちら、2丁先の角をまがったところにもありますね。そちらどうですか、社長」
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